齊藤 颯
宇宙にある天体は、目に見える可視光だけではなくレントゲン撮影に使われるX 線や電子レンジで用いられているマイクロ波など、様々な波長の電磁波を放っています。人間の目は可視光を捉えて形や色といった情報を得ますが、もしも機械の力を借りて可視光以外の電磁波を「見る」ことができれば、目では分からない天体の別の姿を知ることが可能になります。この発想に基づいて、無線通信に用いられる電磁波である電波を使って宇宙を調べるのが電波天文学です。
例えば、全ての光を吸い込んでしまい直接は見えないブラックホールも電波を使えば観測することができます。ブラックホール周辺のガスが放つ電波から、間接的に様子を伺うのです。他にも、星と星の間にある目では見えないガスの成分や分布を調べることで、新しい星の誕生や銀河の構造について様々な情報を与えてくれます。
このように多くのことを教えてくれる電波ですが、天体が放つ電波は地球に届くまでに弱くなってしまうという問題があります。月面に置いた携帯電話から届く電波の方がはるかに強力なほどです。耳に手を添えれば小さな音も聴きやすくなるのと同様に、電波望遠鏡は直径が数十から数百メートルもの巨大なパラボラアンテナによって微弱な電波を集めます。
しかし問題はそれだけではなく、電波は可視光のように発信源がはっきりしないという性質があり、1 つの電波望遠鏡だけではぼやけた姿しか見えません。それを解決するため、小型のアンテナを何十個も並べて同じ方向を観測する方法があります。片目よりも両目の方が物をはっきり見ることができるのと同じ仕組みです。最新の電波望遠鏡では66 台ものアンテナを使ったものがあり、既存の望遠鏡の何倍もの性能によって宇宙の謎をさらに解き明かすことが期待されています。